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麻疹(はしか)は、ありふれた病気?【Dr.村中璃子のからだノート・前編】

子育ては24時間365日のオンコール。「病気だって休めない」あなたと、 あなたの大切な家族を守るため、医療や健康にまつわる知識を身につけよう。

娘を7歳で亡くした作家の手紙

『チョコレート工場の秘密』などの作品で知られるイギリス人作家、ロアルド・ダール。彼の書いた、次の手紙をまずは読んでみてください。

***
僕の長女オリビアは、7歳のとき麻疹にかかった。

病気の時にいつもそうするとおり、僕はベッドでオリビアに本を読んでいた。その時には深刻な病気だなんて思っていなかった。

快方に向かっていたある朝、僕はまたオリビアのベッドに座り、色とりどりのパイプ掃除ブラシを使って小さな動物の人形をつくるのを見せ、今度はオリビアが自分でつくる番になった時、はじめて様子がおかしいのに気づいた。

オリビアは考えて指を動かすことができず、他のことも何もできなかった。

「大丈夫?」

僕はオリビアに訊ねた。

「ものすごく眠いの」

オリビアは答えた。

それから1時間のうちにオリビアは意識不明になり、12時間のうちに死んだ。

麻疹ウイルスは、オリビアに髄膜炎と呼ばれる恐ろしい病気を引き起こしていた。医者にできることは何もなかった。これは24年前の1962年の出来事だ。でも、オリビアに起きたのと同じように、麻疹が髄膜炎を起こせば、今でも医者にできることはない。

一方、今ではこんな悲劇が起きることのないよう、親が自分の子どもにしてやれることがある。麻疹のワクチンを打ってくれ、と言うことだ。1962年、僕はオリビアにそうしてやることができなかった。当時は信頼できる麻疹のワクチンがなかったから。でも今日では、良質の安全なワクチンがどの家族にも手に入る。親はただ医者に行って、打ってくださいと言うだけでいい。

麻疹が危険な病気だ、という考えはまだ一般的じゃない。でも、僕の言うことを信じて欲しい。麻疹は危険な病気だ。僕の考えでは、自分の子どもに麻疹のワクチンを受けさせることを拒否する親は、子どもたちをリスクに曝している。麻疹のワクチンが義務化されているアメリカでは、種痘と同じように麻疹が撲滅された。

イギリスでは、頑なさや無知、恐怖から、多くの親が子どもにワクチン接種させることを拒否している。そのため、毎年まだ10万人もの子どもが麻疹にかかる。そのうち、1万人以上が1つ以上の後遺症に苦しむ。毎年1万人が中耳炎や肺炎になる。そして、毎年20人が死ぬ。

このことを心に留めよう。毎年、イギリスでは20人の子どもが麻疹で死ぬ、ということを。

じゃあ、あなたの子どもがワクチンを受けることで負うリスクはどのくらいあるのだろうか?

ほとんどゼロだ。僕の話を聞いてほしい。ある地域に30万人の人がいるとして、はしかワクチンで深刻な副反応が起きるのは250年に1人!つまり、約100万分の1の確率だ。思うにこれは、チョコレートバーを喉に詰まらせて窒息する確率より低い。

じゃあ、いったいワクチンの何をそんなに心配するのだろう?子どもにワクチンを接種させないのは、ほとんど犯罪だ。

理想的な接種時期は生後13カ月。でも、遅すぎると言うことは無い。学校に通う子どもでまだ麻疹ワクチンを受けていない子は、親に頼んで今すぐ打ってもらって欲しい。

僕がオリビアに捧げた本は2冊ある。1冊目は『おばけ桃が行く』。これは、オリビアがまだ生きているときに書いた本。もう1冊は『オ・ヤサシ巨人BFG』これはオリビアが死んだ後で、オリビアとの思い出に捧げた本だ。

2冊の冒頭には、どちらにもオリビアの名前が記されている。オリビアは自分の死が、ほかのたくさんの子どもたちの病気や死を防ぐために役立ったことを知ったらどんなに喜ぶことだろう。

(ロアルド・ダール「オリビアの死」訳:村中璃子)

後編の「ワクチンで防げる病気で 子どもを亡くさないために」は10月19日(金)公開予定です。

村中 璃子さん

医師・ジャーナリスト。京都大学医学研究科非常勤講師。世界保健機構(WHO)を経て、メディアへの執筆を始める。2017年、ジョン・マドックス賞受賞。著書『10万個の子宮』(平凡社)。

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